離婚することが決まったとき、多くの方が「離婚協議書を作ろう」と考えます。離婚協議書は、養育費や財産分与などの取り決めを文書に残せるため、後々のトラブル防止に役立ちます。

ですが、離婚協議書だけでは「法的な強制力」がないという点をご存じでしょうか?

実際に、「きちんと取り決めたはずなのに、養育費が支払われなくなった」「財産分与をずっと待たされている」といった相談は少なくありません。

今回は、離婚後に後悔しないために知っておくべき「離婚協議書と公正証書の違い」について、行政書士が解説します。


離婚協議書だけではどうなる?

知っておきたい限界

離婚協議書は、相手との合意を書面に残せるため、「言った・言わない」の争いを避けるには一定の効果があります。しかし、相手が約束を守らなかった場合、すぐに強制的に履行させることはできません。元配偶者から金銭が支払われない場合には、裁判上での手続きを新たに行わなければなりません。つまり、裁判を起こさなければならず、時間・費用・精神的負担すべてが大きくなってしまいます。


公正証書で作成した場合、

すぐに強制執行が可能

一方で、公正証書であれば話は変わります。養育費や財産分与の取り決めを公正証書に記載し、さらに「強制執行認諾文言(※)」を入れておくことで、裁判を経ずに強制執行が可能となります。

※「強制執行認諾文言」とは:

甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

この一文があることで、たとえば養育費の支払いが滞った場合でも、裁判を経ることなく相手の給与や預金口座を差し押さえることができます。


将来の“特別な出費”も、

公正証書で

備えることができる

さらに、学費や医療費など、将来の“特別な出費”についても記載しておくことが重要です。

通常、親権者は日々の生活費だけでなく、進学や病気などの突発的な出費も一人で背負うことが多くなります。しかし、これらの費用は養育費の範囲外とされることがあり、取り決めがなければ、親権のない側には請求できないことがあるのです。

たとえば以下のような文言を入れておくことで、親権を持たない側にも、将来的な負担を求めることができます:

・上記未成年者が病気、入院、進学などの事情により特別の費用を要するときは、乙の資料を添えた請求により、甲がその実額の5割に相当する額を負担する。

あるいは、

・その都度双方の誠実な協議により甲の分担額を定め、資料を添えた請求があったときは、速やかに支払う。

実際には、「高校の進学費用が想定以上にかかったが、元夫に“そんな約束してない”と拒否された」「子どもが大きな病気をした際、親権者だけが全額負担して経済的に困窮した」といったケースも少なくありません。

このような事態を避けるためにも、事前に特別費用の取り決めを記載しておくことは極めて大切です。

これらを公正証書の中にしっかりと明記しておくことで、親権者が突然多額の費用を一人で背負うリスクを減らすことができます。


金銭の支払いがあるなら、

公正証書一択です

養育費、慰謝料、財産分与など、金銭の支払いを伴う取り決めがある場合、公正証書での作成を強くおすすめします。

相手が支払いを滞らせたとき、強制執行ができるかどうかで、あなたの今後の生活やお子さんの将来が大きく変わります。

また、公正証書にしておくことで、仮に支払いが行われなかった場合も、裁判を起こさずに差押え等の手続きに移ることができるため、精神的にも金銭的にも負担を減らすことができます。

コラム一覧へ戻る

TOPページへ戻る